成長と分配の好循環に不可欠な中小企業の復活

1|岸田政権の看板政策
「成長と分配の好循環」は、2021年10月の政権発足以来、岸田首相が掲げてきた重要政策である。この政策の実現メカニズムは、(1)家計所得の増加、(2)個人消費の拡大、(3)企業の適切な価格転嫁、(4)企業の収益拡大、(5)設備投資の増加であり、これが更なる賃金上昇につながり家計所得が増加し、新たな循環が始まるという経路となる。2|好循環の成否が掛かる正念場
マクロデータをみると、日本経済は好循環の輪の中には、まだ入り切れていない。まず、日本経済の基調を変える原動力となっているインフレを確認すると、消費者物価(生鮮食品を除く総合)は、2023年1月にピークを付けたあと緩やかに低下しつつも、日銀の物価安定目標2%を上回る水準で推移している[図表1]。日銀の植田総裁は、2024年2月22日の衆議院予算委員会に出席した際、現状を「デフレではなくインフレの状態にある」と表現し、3月19日の金融政策決定会合で17年ぶりの利上げに踏み切っている。日本経済の基調は明らかに変化して来たと言える。一方、家計については、名目ベースの所得は増加しているものの、その増加ペースは物価の上昇ペースに追いついていない。実際、物価を加味した実質賃金は、2022年4月以降23ヵ月連続で前年を下回っている[図表2]。これは、所得の実質的な目減りを意味しており、家計が生活防衛の意識を強める中、二人以上世帯の実質消費支出は、2023年3月以降12ヵ月連続で前年を下回っている[図表3]。今後は、物価上昇が一段落する中で、これまでの賃上げが徐々に効いて来ると期待されるが、現時点では、(1)家計所得の増加、(2)個人消費の拡大という好循環は、実現の途上にあると言える。他方、企業については、法人企業統計ベースの経常利益(金融業・保険業を除く全産業)は、2023年4-6月期に過去最高を記録し[図表4]、国内企業の設備投資も、10-12月期の比較で過去最高を記録するなど、一見すれば好調にも見える[図表5]。しかし、好循環の持続性を左右する、企業の価格転嫁の状況を見てみると、必ずしもそうではないことが見えてくる。実際、帝国データバンクの調査によると、国内企業の価格転嫁率は、物価上昇が始まった2022年前半の4割程度から変わっておらず、これまでのコスト上昇分の大半は、企業の自助努
情報元サイト:「株式会社ニッセイ基礎研究所」
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