奥南エンゲージファーム株式会社 (愛媛県)
移住者としての強烈な地域貢献意識が原動力に。宇和島の魅力のすべてが詰まった『みかんジュース』を通じて届けたいストーリー
なにひとつ混じっていない、搾りたてのみかんの魅力をぎゅっと閉じ込めた『奥南エンゲージファーム株式会社』こだわりのみかんジュース。中でも人気の「南柑20号」は、温めて飲むのに適しているのだとか。みかんジュースの可能性を追求する過程で生まれた、話題の一本をご紹介します。
「地域おこし協力隊」として移住した愛媛県、そして宇和島に貢献したい
愛媛県の南西部に位置する宇和島は、日本有数のみかん生産地として知られています。
2016年に、お遍路をきっかけに移住を考え、「地域おこし協力隊」として3年間宇和島市の市役所職員となった渡部武士さん。柑橘農業の振興のミッションとして、実際に農作業を手伝いながら現場でお話を聞く中で、彼らが本当に求めている地域活性化のあり方について考えたのだといいます。
「そこで聞いたのが、若い人の都市部流出と親から子への家業後継への複雑な気持ち、もっと柑橘農業の素晴らしさに注目してほしいというお話。みかんを出荷するだけでなく、みかんを通じた地域のポテンシャルを生かした活性策はないかと考えるようになりました」
そこで目をつけたのがジュースだったのだとか。地域の農家さんが余ったみかんをジュースにして親戚に配るという話がヒントになったのだといいます。
「工場に搾汁を依頼するため、一度にかなりの量のジュースができるのですが、皆さん、売り方がわからないので、余ってしまったら捨ててしまうと言います。こんなに美味しいのにもったいないという思いもありました」
そこで渡部さんは、個人事業としてジュースを使った事業を立ち上げることに。それが現在、ご自身が経営する法人『奥南エンゲージファーム株式会社』の原型となります。まずは、このジュースの魅力を多くの人に伝えていきたいという思いから、自費で農家さんから果実を購入し、出来たジュースをサンプルとして多方面に配布。すると口コミ評判が広がり有名ホテルやレストランからオファーが入ってくるようになったといいます。その期待に応え、より美味しいジュースを作ろうと工夫を重ね、クオリティを追求していった結果、現在の形態にたどり着いたのだといいます。
「当初は自分の利益ではなく、あくまで地域の利益、もしくは地域の農家さんの利益になることだけを考えて突き進んできました。農家さんからみかんを高値で仕入れ、様々な品種のジュースにして付加価値をつけて、農家の方々が苦手としていた営業を買って出て拡販していきました。さらに都市部の催事販売だけでなく、総務省の協力隊サミットでの活動展示即売会や、愛媛県を通じて外務省のレセプションに出席してPRするなど、都市部のみならず世界中の方々にこの『愛媛・宇和島』という地域を、年間を通じていつでも知ってもらうツールとして、このジュースを活用しました」
ストーリー性のある価値を高め伝えていきたい
渡部さんは、このジュースは、“こだわりを持った人にお求めいただきたい”と考えています。そして、“こんな味わいのあるみかんジュースがあったのか”と、普段できないような驚き「WOW体験」を体験してもらいたいといいます。
「私はジュースを買ってくれた人に対してちょっとしたメッセージを付けることがありますが、私は常々ジュースという形をした「心」を提供したいと考えています。愛媛県の宇和島には、これだけ良いものを作る気持ちがある、日本にはこれだけ良いものを作っている人がいるということを知ってもらいたい。商品の物理的価値を高めるだけでなく、地域の豊かさやストーリー性のある価値を高め伝えていきます」
渡部さんは、農家の方々が置かれている状況を心配し、皆さんの頑張りや苦労もしっかり伝えていく責務を担っているという考えも持っています。
「みかんは年に一度しか収穫できませんし、みかん畑の多くは山の急斜面にあり、時に事故で怪我や亡くなる人が出るなど危険なこともある。なので農家さんがある意味命がけで作っているものだということも伝えたいと思っています。ただ単にスーパーで袋入りのみかんを手に取るだけではなく、そのみかんは誰がどのようにして作っているか、どういう気持ちで、環境で、願いで、育てているのか、そういった幾重ものストーリーが積み重なって生まれたジュースを販売する、だからこそ真摯にこの仕事に向き合っているのです」
みかんの可能性を広げる“温めて飲むみかんジュース”
みかんジュースと一言でいっても、実にたくさんの種類を提供していることに驚かされます。年によって数は変わるのだそうですが、今年のラインナップは何と22種類。それは渡部さんがジュースづくりにこだわり、追求をしていった結果と言えます。
「例えば、ワインもお客様の好みは何百種類あっても足りません。みかんジュースも同じで、甘みや酸味、細かく言えば苦味や独特な風味、口当たりなど、突き詰めて行くとそれぞれに好みが違います。私がマネジメントできる範囲で多くのお客様それぞれに“自分にとって最高のジュース”をお届けしようと考えていったら、結果的に、これだけたくさんの種類を作ることになっています」
その中のひとつに、今回ご紹介する「南柑20号」があります。「南柑20号」というのは、年末に食べられる品種の名称。往年、愛媛県が一番推し進めているお歳暮用の高級みかんなのだとか。他のみかんに比べて皮が厚めで、果実そのものにクセが少なく、より濃厚で味わい深いという特徴を持っています。
販売を開始したのは2016年の12月で、奥南エンゲージファームとしては3番目に誕生したジュースなのだとか。
「みかんは基本的に収穫したらすぐに出荷するので、数日以内にはジュース工場に持っていきます。早いときは翌日に工場に持って行ったこともあります。山で収穫したての状態で絞っていますね。当店ではお客様やクライアント様のニーズに寄り添うべく、品種や味の特性に合わせた絞り方をそれぞれに採用していますが、この『南柑20号』は、インライン搾汁法という、外皮の周りを絞らない製法でジュースを作ります。果皮の油分が入らないためエグみやクセが少なく、まろやかな口当たりとなります」
何よりも驚きなのが、この「南柑20号」を絞って作ったジュースは、温めて飲むのに適しているということ。創業時から研究や調査を重ね、温めるのに最適なジュースとしてPRを進めていったのだといいます。
「ヒントになったのは、フレンチの食後に供される『クレープシュゼット』というデザート。クレープにオレンジリキュールやオレンジジュースを温めたソースをかけています。フランスの一部では、ホットオレンジを飲む習慣があると聞いたこと、また愛媛県の一部地域では「焼きみかん」という無病息災の神事による食べ方もあったので、みかんは寒い時期のものですし、温めて飲んだら面白いのではないかと思いました」
ありとあらゆる品種のストレート果汁や市販のジュースを温めてみたり、様々な料理に使ってみて分かったのは、市販のジュースは果汁還元や加糖調整で味がおかしくなり、ストレートの早生みかんを温めると鼻に着く青臭さが残るということ。しかし「南柑20号」のジュースは温めても嫌な臭みが出ず、レモネードのように甘く芳醇な香りが立ったのだとか。このような研究を実施しているのは、他のジュースとの差別化をはかり、この地域のジュースの新たな可能性を拡大したいからに他なりません。
「催事などで、この『南柑20号』のジュースを目の前で温めて提供したときには、お客様はとても驚いていました。そして実際に飲んで『美味しい』と再び驚かれ、その場で買ってくれる方が多くいらっしゃいましたね。通販でご購入される方には、『温めてお飲みください』というメッセージを添えて出荷します。レンジで温めるだけで簡単。いくつも研究した中で最適な方法をお伝えしています」
自分が“宇和島に来て良かった”という思いを形に
渡部さんが、このみかんジュースに掛ける情熱は並々ならぬものです。その根底にあるのは、強烈な宇和島愛と地域の農家の方々への敬意と貢献の意識。農家の方々の実情を現場と実論で理解し、外側の人間ではなく、きちんと共感を持って発信していきたいという思いと、みかんジュースづくりを極めたいという思いから、2020年から自身も就農を果たし、実際に1ヘクタールのみかん山でみかんを育てるところから始めたそうです。
「私がお届けしたいのはみかんジュースではありますが、みかんジュースの形をした“何か”です。買っていただきたいのは愛媛、そして宇和島の郷土の魅力や、農家さんが手塩にかけて育てた気持ち、果実のポテンシャルです。私は移住者なので、主観と俯瞰双方の視点で自分が宇和島に来て良かったという思いを形にしています」
宇和島の魅力、農家の方々や地場産業への価値を発信したいという渡部さんの活動範囲はどんどん広がっていきます。最近は、講演や国・大学等で講義もしているといいます。
「年に何度か、愛媛県内の大学や総務省主催の研修会でCSRについての講義をしています。自分のジュース事業を題材にして、どのように地域への存在意義を出しているか、どのように地域貢献をするかなどをお話させていただき、将来的に学生のみなさんが、どのような意義や目標を持って社会に出ていくべきか、移住への魅力のヒントになればという思いを持っています」
今回ご紹介した企業
奥南エンゲージファーム株式会社 (愛媛県宇和島市)
陽光と潮風をたっぷり浴びながら高品質な柑橘が生まれ育つ愛媛みかん発祥の地、宇和島市。宇和海・豊後水道・法華津湾に面した温暖な気候の中、みかん生産者として開墾、土創り、植樹、育成、肥料研究、収穫、そして果実選別、加工化、搾汁、製品化、販売、サービスまでのすべての過程において、“実論に基づいたこだわり”を持って関わっていく企業です。社名に掲げる「エンゲージメント」は、約束や信頼を意味する言葉です。お客様の満足度という意味にも繋がっていきます。いかにお客様と強く繋がっていくか、地域の風土を感じて心を満たしてもらうか、という思いを込めています。
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