株式会社 小川屋 (新潟県)

新潟の伝統を未来へ・全国へ―漬魚 味くらべ

新潟県新潟市にある小川屋の「漬魚 味くらべ」は、新潟の伝統食「漬魚」の食べ比べが楽しめるセットです。甘酒を加えた粕漬け「越乃甘粕漬」と伝統的な越後味噌に漬けた「復刻味噌漬」の2種類の味付けで、鮭や銀だらをていねいに漬け込みました。すっきりとした甘さと、ほのかな酒粕の香りとコク、力強い味噌の旨味が堪能できます。

新潟に受け継がれてきた伝統食・酒粕と越後味噌の漬魚

小川屋のある新潟県は、歴史的に発酵を活かした食文化が育まれてきました。その中の1つに、「漬魚(つけざかな)」があります。漬魚は酒粕や味噌に魚の切り身を漬けたもの。保存性を高めながら、発酵食品の旨みを魚に移す古の知恵が活きた調理法です。

小川屋は創業明治26年。伝統の漬魚を製造・販売してきました。今回ご紹介する「漬魚 味くらべ」も、鮭や鱈を使った粕漬け・味噌漬けの漬魚のセットです。

伝統的な粕漬けは、ちょっと好き嫌いを選ぶかもしれません。粕の匂い・香りがダメな人はとことんダメ・好きな人はとことん好きに分かれるのではないでしょうか。保存のため、今よりも昔は塩辛かったといいます。

魚の味噌漬けは西京漬けが有名ですが、京都以外で作られているというのは意外にあまり聞かないかもしれません。しかし新潟では身近だそうです。新潟では、旨みの強い特産の赤味噌「越後味噌」で作られてきました。

「数年前、会社として厳しい時期があったんです」

同社の営業部部長・山田さんは話します。

同社の粕漬け「越乃甘粕漬」・味噌漬け「復刻味噌漬」はそんな過渡期にリニューアルした商品です。お話を伺うと、どちらも同社の強い思いが形となって現れている商品でした。

美味しいものを作ればわかってもらえるはず

同社の2つの漬魚の誕生は5年ほど前。会社として進むべき方向を選ばざるを得ない状況でした。

「越乃甘粕漬」は、お酒や酒粕の香りがダメな人でも美味しく食べられる粕漬けとして味づくりが始まりました。

ちょうど甘酒が注目されるようになり、定番となりつつあった時期。甘酒と酒粕を合わせればよいのでは?というひらめきがありました。新潟の発酵文化とも響き合うのも理由だったといいます。

しかしそこからは、本当に何度も何度も試作と試食の繰り返しでした。

魚の種類・酒粕の種類・甘酒との配合・漬け加減…。漬ける時期でも味が変わります。無数の組み合わせをいろいろ試しに試し抜いたと言います。そうしてようやく、粕の香りを感じつつ粕臭くなく、甘酒の甘みも感じられるような味にたどり着きました。

「復刻味噌漬」も同じです。

今の味噌は、クセをなくすよう大豆は蒸す・煮るを半々に処理して作るのが主流です。しかし同社は、旨味が強くなる昔ながらの蒸す製法の味噌にこだわりました。そうしてできあがった越後味噌で、素材の旨みを引き出すことができるようになったそうです。

苦しい時期にあるときに、伝統を守るのか変えていくのかの選択を余儀なくされることがあります。伝統を守ることを選んだ場合、失敗すれば前例に固執したと評価されてしまいます。逆に変えた場合、うまく行かなければ守るべきものを見失ってしまったと言われます。さらに苦しいという状況が、ますます判断を難しくします。

同社が拠り所にしたのは、美味しいものをきちんと作ればわかってもらえるはずという考えでした。

伝統の積み上げ方とは―現在進行形の伝統伝承

このように伝統食を商品化すると言っても、伝統的な製法をそのまま再現したわけではありません。

ある意味では伝統から外れる甘酒の使用。伝統的な越後味噌にこだわりながらも、昔の塩辛い味に逆戻りしないよう塩辛さを抑えて旨みを引き出す工夫。

同社は古き良き伝統は守りつつ、新しいものにどんどん挑戦していく社風だといいます。

「変わらないのも大事だけれども、大きな流れは変えずにマイナーチェンジするようなことが大切だと感じています」

漬魚2種の開発は、まさに同社の姿勢が目に見える形に現れているものでした。

さらに、本質は変えずに提供の仕方を変える。そんな商品もあります。

同社には、漬魚を焼いて真空パックした「焼き上げ」シリーズがあります。通常の漬魚をそのままレンジで食べられる便利な商品です。これは現代の忙しい方向けに開発したといいます。時代に合わせた提供の形です。

伝統をただ機械的に繰り返すのではなく、積み上げてきた本質はそのままに時代時代にフィットした形にアレンジしていく。同社は今、そのような姿勢で商品作りに取り組んでいます。そして、創業者も先代も、そうやって事業を続けてきたのではないでしょうか。

変わる・変わらないで言えば、漬魚はだいぶ落ち着いてきたと感じているそうです。

しかしやはり山田さんはこうも言うのです。

「これからもいろいろ変わっていくと思うし、同じでいいかと言うとそうではない」と。

「新潟の”うまい”を未来へ」―ここから、これからに向けて

「美味しいものって時代が変わっても廃れないですよね。新潟の美味しいものを文化として未来につなげていきたいと思っています」

あくまで個人的な話ですが、と断って山田さんは続けます。

美味しいものを食べると人は自然に笑顔になる。うちの商品は贈り物にしていただいている方が多い。父の日・お中元・お歳暮…。贈る方も結構悩んで贈っている。美味しいから食べてと贈って、おいしければ贈られた方も笑顔になる。そうやって皆に伝わっていったら、世の中幸せになるんじゃないか…。美味しいものは世界を幸せにする。笑顔にする。そう思うんです、と。

同社の商品もそうやって現代に至るまで伝わってきました。これからも同じように、伝統の美味しさを広く新しい世代にも伝えていかなくてはなりません。古くからのファンの方からは、昔のような塩辛いのも食べたいという声を聞くこともあるそうです。しかし健康志向の進む現在、それもなかなか難しいのが実際のところです。そこは変えていかないと、世界・時代の流れから取り残されてしまうことになります。

若い人には、焼き方の説明から入るそうです。魚離れが進んでいるのを実感しつつも、食べてもらうと美味しさは伝わるのだといいます。確実に新しい世代にも漬魚が伝わりつつあります。

同社の社是は「新潟の”うまい”を未来へ」です。まさに言葉の隅々まで、そして語られる同社の商品開発などの姿勢のあらゆる点で、その哲学が形になっているのを感じました。

商品のご紹介

今回ご紹介した企業
株式会社 小川屋 (新潟県新潟市)

「こんな”うまい”ものを孫にも食べさせてあげたい」と言われたことをきっかけに、1893年(明治26年)に創業。漬魚を中心とした水産加工品、漬物などの加工と販売を行っています。伝統に安住することなくたゆまぬ努力を続け、贈答品中心の商品展開に加えてお弁当の宅配事業などもスタート。新しいファンを獲得しています。

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