株式会社 龍宮堂(愛媛県)
小魚珍味の元祖にして古びることのない定番―「小魚の二名煮」
愛媛県伊予郡松前(まさき)町は、小魚珍味発祥の地。同地の数あるメーカーのうち老舗御三家の1社が「株式会社 龍宮堂」です。
同社の「小魚の二名煮(ふたなに)」は、明治10年(1877年)から販売されている小魚菓子・小魚珍味の元祖にして定番。一般的な珍味のイメージをよい意味で裏切るような、さくっと軽い食感と素材の美味しさをそのまま生かした薄味が特徴です。
明治時代に誕生、愛媛・四国の特産品に
同社のある松前町には、江戸時代から昭和まで「おたたさん」と呼ばれた女性の行商たちが存在していました。魚を入れた木桶を頭に乗せて地元で獲れた魚を売り歩いていたそうです。
明治時代、「おたたさんたちの売れなかった小魚や、市場で捨てられていた小魚を美味しく食べる方法はないか」と考えた人がいました。焼いたり煮たりしながら試行錯誤を重ね、約3年の年月をかけて完成させたのがこの「二名煮」です。
そして今もなお、当時の製造方法にのっとって製造を続けているのだそうです。
「二名煮を愛する人がいる限り、この伝統を守り続けていこうと思っています」
同社の代表取締役社長・三好さんは話します。
またこの「二名煮」という名前の由来も教えてくれました。
「販売を始めてしばらく経ったころ、愛媛県だけでなく四国全体の名産品にしたいと考えたそうです。当時親交のあった画家の富岡鉄斎先生に相談したところ、『古事記』に四国の旧名が『二名島』とあることにちなんで『二名煮』と命名していただいたそうです」
そして今や日本全国で小魚珍味・小魚菓子は一般的なものとなりました。
食べる人も、食べるシーンも選ばない
「お酒のおつまみはもちろん、お子さんのおやつやお茶うけにもぴったりなので、お好きなように召し上がっていただきたいと思います」
三好さんはそういいます。
添加物を使用していないので安全、それに柔らかく薄味なので食べる人を選ばないんです、と。
小魚の珍味は誰もが食べたことがあると思いますが、二名煮はまず食感がまったく違います。ふつうならカリっとした食感をイメージするところ、想像以上に柔らかくほろほろと溶けるような食感。それと同時に魚そのものの香りが鼻を抜けていきます。海がすぐそばにあるような、磯の香りがよく感じられる逸品です。
ほんのり甘みをつけてありますが、素材の風味を活かした薄味に仕上げてあります。そのため、魚のうまみを活かしつつ食べやすくなっています。どんな人でも、いくらでも食べられてしまうでしょう。
「4人家族なら、1人で2つ3つ食べてしまうような商品なので、24袋入りでもすぐなくなってしまうかもしれません」
三好さんは笑います。
実際、若いお母さんから「魚嫌いだった子どもが食べられました」と喜ばれたことがあるそうです。食べる人を選ばない食べやすさがゆえのエピソードです。
そして昔から作っている商品なので、オールドファンが多いのだそう。80歳ぐらいの方が、数十年ぶりに食べて「昔懐かしい味を美味しく食べられました」と話してくれたこともあるそうです。
「おつまみとしては何にでも合うんでしょうか?」
そう尋ねると、
「嫌な魚くささはないので、ビール、日本酒はもちろんワインにも合います。赤はどうかな、白には合います。あとハイボールにも」
とすぐに答えてくれました。その即答ぶりに、
「お酒、お好きですか?」
とお聞きしたところ、
「好きです」
と笑いました。二名煮でいろいろなお酒を飲まれるそうです。お酒を邪魔しない、それでいてお酒と対等なパートナーになるんですよ、そう話してくれました。
素材そのままに見える姿に隠されたこだわり
初めの写真を見ていただくとわかりますが、二名煮は小魚そのままのような姿です。ごまがふってあるわけでもなく、タレが絡めてあるわけでもありません。しかしとてもシンプルな商品だからこそ、いろいろな気遣いとこだわりを持って作られています。
こだわりは素材選びから始まります。二名煮に使用している魚は国産100%。近海の瀬戸内海産を中心に、日本海産などすべて国内で獲れた新鮮な魚ばかり。しかも魚の大きさにもこだわりがあるそうです。
「マッチ棒より小さいぐらいがちょうどいいんです。大きくなりすぎると、内臓の苦味が強くなってしまいます。煮干しで出汁を取るときは内臓を取り除きますよね。やっぱり内臓は魚のうまみを邪魔してしまうんです」
素材にこだわっているぶん、添加物は使いません。そして極力味付けは薄く。それも魚の風味を活かすためです。
さらに加工にもこだわりが。柔らかさを残して乾燥させるための窯です。これは先代の社長が研究を重ねて完成させたものだそう。最大の特徴は低温で乾燥させること。表面の温度の反射の仕方を計算し、通常は70度前後に温度を設定するところを40~50度でじっくり時間をかけて乾燥させるそうです。
低温乾燥のため、通常の3~4倍の時間がかかるといいます。魚の種類によっては20時間以上かかるのだそう。大量生産はできませんが、仕上がりが非常によくなるのだといいます。
また、ちょうどいい乾燥具合のタイミングは魚ごとに限られていると話します。
「乾燥が少ないとサクサク感が出ません。乾燥しすぎると身がもろくなって折れやすくなります。ベストのタイミングを見計らうのは職人技で、その日の温度や湿度も考えながら最終的には触感でできあがりを確認しています」
こうして5種類の魚をそれぞれ別々に乾燥させてミックスしています。明治時代の発売当時からミックスしているそうで、当時のスタイルを色濃く残している面でもあります。
歴史を引き継ぐということとは
これだけ手をかけて作っているので、きっと自負も自信もあることでしょう。しかし100年以上の歴史を持つ由緒ある製品です。それだけに、歴史の重みがプレッシャーになったり、伝統からずれてしまっていないか不安になることはないのでしょうか。「大丈夫」と思えているのか、思えるのはどういうときかお聞きしました。
「それはもう単純に、私が食べて美味しいと思えていることですね。一番のおすすめです」
食に携わる以上、舌には自負もあるそうです。そのうえで商品には絶対の自信があるとはっきりと話してくれました。
その自信は、同社の企業理念を実行できている証でしょう。
同社は、「”おいしいおつまみ”を通して、お客様に『やすらぎ・たのしさ・感動』を提供」することが企業理念です。
美味しいものを食べて得られる癒しややすらぎ、美味しいという感動を伝えたい、三好さんはそういいます。
また歴史を継承していくということについてもうかがいました。
「古いものも新しいものも両方大事にしていきたいと考えています」
二名煮のような昔からある商品はそのまま引き継ぐ。できれば何も変えずに継承する。そして新たな商品として、時代のニーズに合わせた商品を提供する。それはメーカーの使命でもある。その両方をやっていく。
そう答えてくれました。
長い歴史を持つ会社の方ほど、時代のニーズに敏感だと思わされることがあります。伝統を守ることで精いっぱいになることもなく、歴史にあぐらをかくこともないのです。同社も同じです。現代の健康志向にマッチした商品開発にはじまり、SNSの運用やインターネットでの販売の活用などあらゆる点でそれを感じます。
だからこそ、その時代その時代を生き抜くことができ、その結果歴史を重ねてこられたのでしょう。そしてその企業文化が根付いているからこそ、今も先達たちと同じように力強く答えられるのでしょう。
今回ご紹介した企業
株式会社 龍宮堂 (愛媛県伊予郡松前町)
小魚珍味発祥の地・愛媛県伊予郡松前町にて1877年創業。海産珍味の加工メーカーとしては同地の老舗御三家のうちの1社です。現在は瀬戸内海まですぐの場所に事務所と製造工場を構え、こだわりの珍味を全国にお届けしています。珍味業界の重要な役割を果たす小魚珍味の元祖メーカー。安心・安全で美味しくて体にいい食品を世の中に提供していくことを使命とし、業界と地域の発展のため日々活動中です。
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