有限会社 長田茶店 (鳥取県)
「和文化継承業」として作り上げたスイーツ―「大山の香り ろーるセット」
「茶葉と茶道具の専門店も運営する「ながた茶店」は鳥取県米子市に本社のある会社です。同社の「大山の香り ろーるセット」は、鳥取県の銘茶の生産地として名高い大山町のお茶をふんだんに使用したロールケーキのセットです。本物の抹茶とほうじ茶の味と香りが活きている、余計な味のしない洗練されたロールケーキです。
茶葉を買い取り続けるために
「このままでは、今まで茶葉を納品してくれていた農家さんから購入できなくなってしまう」そんな危機感が始まりだったと同社の代表取締役・長田さんはいいます。
お茶の消費量は減っています。総務省のデータを見ると飲料への支出の25%はお茶ですが、大半がペットボトル。問屋が購入する茶葉の購入額も年々減少しています。
お茶を今以上に飲んでもらおうにも、がぶ飲みを勧めるわけにもいきません。同社では、お茶以外の形でどう消費を増やすかを検討したそうです。消費者は、お茶を使ったどんな商品を求めているのか。
目に留まったのがスイーツでした。ここからはかなりロジカルに考えを展開していきます。
一家庭あたりのお菓子への支出額は大きい。お菓子メーカーにも原料を納品しているので協力も仰げる。では人気のあるお菓子の共通点は?そして「甘い・柔らかい・油を使っている」という点に気づいたそうです。クリームを使用した洋菓子にいきつきました。
付き合いのあるお菓子屋さんとも相談して、ロールケーキがいいだろうという話になります。しかし販売する場所や環境を考えて、手始めにロールケーキのドリンク版として抹茶ラテを商品化。大山町産の抹茶を使ったご当地ラテは地元で爆発的な人気となります。姉妹品として発売したほうじ茶ラテもヒット。
自信と確信を得て、いよいよロールケーキの商品化に着手します。
頑張った自分へのご褒美スイーツ
お茶屋としてお茶の香りや味わいにこだわりを持って商品化したロールケーキ。当初は、抹茶を好むような20代半ば~40代の女性が気に入ってくれるだろうと考えていたといいます。しかし甘さ控えめで苦味を抑えたため、お子さんや年配の方も楽しめる仕上がりに。年齢層は当初考えていたよりも幅広いといいます。
高い品質の商品なので、頑張った自分へのご褒美として購入する方が多いそうです。平日は仕事を頑張って、休日のちょっとした贅沢にと週末の注文が多いそうです。
長田さんはおととしまで羽田空港近くの大井町に住んでおり、鳥取の本社まで日帰りで行き来することもあったそうです。関東で百貨店や駅中の催事に出店することが多く、多い日には3か所ほど催事を回ったといいます。そんな精力的なスケジュールの中、試食や実際に購入した方々からたくさんの生の声を聞くことができたといいます。
中には「また来ましたよ」と言いながら催事の期間中毎日買いに来る方もいたそうです。
「一番初めに買ったのが美味しかったから、きっと全部美味しいんでしょうね」と、「昨日はこれを買ったから今日はこれで」と毎日いろいろな商品を買いに来てくれたのだそう。
「嬉しかったですね」と、長田さんは顔をほころばせます。また直に意見を聞かせてもらうことで、商品開発のヒントも多く得られたと話します。
本物を使う・本物だけを残す
大山周辺は、鳥取県内有数のお茶処。同社のスイーツはその大山町産のお茶だけを使っています。
「抹茶ろーる」は1本の長さが17cmですが、1本に6服分もの抹茶が使われているそうです。「純生ほうじ茶ろーる」も1本につき9杯分のほうじ茶を使っているといいます。
量だけではありません。一般的にスイーツに使われている抹茶は、煎茶を抹茶風に加工したものを使用することが一般的だといいます。しかし同社では本物の抹茶をぜいたくに使用。収穫の約20日前から光を遮断することで苦味を抑え、うまみ成分が多くなった茶葉から作った抹茶です。しかも効率化よりも味を優先して、石臼でゆっくりていねいに挽きあげているそうです。ほうじ茶は粉砕機を使用して粉にしていますが、やはり熱による劣化を防ぐためじっくり2日かけているそうです。
またクリームも、全国的に有名な地元鳥取県の「白バラ牛乳(大山乳業)」のものを使用。白バラ牛乳のクリームは、全国のメーカーの中でもトップクラスの品質だといいます。
催事ではスプーンでクリームを試食してもらうことがあるそうです。
「びっくりして飛び上がる方とか、目を丸くする方もいらっしゃるんです。『美味しい!』って。そんなときは、『この商品を作ってよかった』と思えます」
長田さんは嬉しそうにそう話してくれました。
同社の2つのロールケーキには、そんな地元産・高品質のこだわりの素材で作ったクリームが渦を巻けないほどたっぷりと詰まっています。
こだわりは素材だけではありません。この抹茶ろーる・純生ほうじ茶ろーるは添加物を使用していないのです。素材の特性や製法などの知見を深めながら、5年ほどの年月をかけて完全に添加物不使用に。
同社で扱うお茶用の茶葉は、「上善水の如し」を合言葉に、洗練され、いくらでも飲める・飽きが来ないお茶を目指しているそうです。2つのロールケーキも同社のお茶のように、添加物を取り除くことで雑味のない洗練された本物の味となっています。
変わらないために変わるということ
「『抹茶ろーる』を一言で言うと?」という問いに、長田さんは
「本物の抹茶をふんだんに使用しています」
と即答してくれました。
それを聞いて改めて感じました。やはり同社が一番伝えたいのはお茶なのだと。
そこでもう少し詳しく同社の事業そのものについてお話を聞いてみました。
同社は、自社のことを「お茶屋である前に和文化伝承業である」と考えているそうです。「和文化伝承業の中でもお茶しかスキルがない事業者」だと。
「和文化伝承業の業者は、それぞれが自社のスキルを活かして後世に日本の文化を残していく役割があると思うんです。将棋や囲碁と同じです。そのほかには、落語、左官、寿司職人、歌舞伎…。お茶や茶道具もその1つです。」
そう長田さんは話します。そのため商品開発も次世代に伝えられる長く残っていくような商品作りを目指しています。10年後・20年後、50年後まで売れるもの・欲しいと思い続けてもらえるものを開発したいと話します。
そこは初めからずっとブレることなく持ち続けている信念。200年続いてきた同社を引き継いだ長田さんは、先代からこんな課題を残されたそうです。
「変わらないために変われるか」
ここまでお読みになった皆さんはもうお分かりのことでしょう。
お茶の農家さんとの取引を絶やさないという強い意志。
道具も含めてお茶の文化を継承していくという決意。
お茶の品質へのこだわり。
そして消費者の求めるものと生産者や自らの提供できるものの交差する点を探し出す姿勢。
和菓子だけにこだわらず洋菓子を商品化するしなやかさ。
変わらないお茶文化を守る気持ち。お茶の文化を守るために時代に合わせていく柔軟さ。
変わらないために変わっています。
これからも今まで同様、変わらないために変わり続けていくことでしょう。
今回ご紹介した企業
有限会社 長田茶店 (鳥取県米子市)
1801年に茶店として創業。江戸から大正にかけては酒屋・薬屋・質屋・長屋・貸し蔵など手広く展開していたといいます。10代当主が連帯保証人となっていた会社が倒産し、自社も倒産の危機に。事業を整理しお茶と茶道具に特化。その後も時流を読みながら事業を展開し、今では茶道具は山陰で取扱量1位となるまでに。鳥取県内のほか都内にも2店舗を構え、和カフェ・お茶専門店も手掛けています。自社の茶畑では土づくりからこだわった有機栽培を行っています。
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